4.杉木立のカーテンに桜が映る
「三春のさくら、すごーく綺麗だったわよね。」とお母さんたちの話し声が聞こえた。
桜、木ざし桜を探しに行こうと席を立ち外へ出た、
磐梯山の頂上に残る雪が真っ青な青空に光っている。
県道7号線の信号を左に折れ、役場から来た道を真っ直ぐに進むと、
神社の参道らしく時代が流れを感じる石積や、大屋根・白壁が並ぶ。
家並みが途切れ、カーブの所に磐梯神社の石柱があり、
車が乗り入れられないだろう朽ちた参道がある。
車を止め、奥向かって歩くと杉の木立が鬱蒼している林の中で、
木立の合間から青空と光がもれる、肌に湿った感じも残る、小さな池があり、
水も流れている。池の側には鐘楼旧跡の記の説明書きが寂しく立っている。
正面には、磐梯神社の跡の基礎石達が建物の在った姿を惜しむように、
杉木立に風穴を開けている。
桜はどこかと見渡すと視界には届かない。
磐梯神社跡の石や溝を越えて奥まで進むと、
神木の巨木が杉木立のカーテンの奥に見える。
「あった。」
さくらがあった。
「あった。」
と荒井さんに、声を後ろに戻すと
「あったすか。」
と神社跡に響くように返ってきた。
50m程先のようである。道を探した。しかし、見つからない。
桜の一番近い距離は、神社跡から奥に進む方法らしい、奥に歩いた。
杉の落ち葉でフカフカする。杉のカーテンを抜けると、ポッカリと小さな空間がある。
その中央に何本もの木で支えられた巨木の桜が三分の咲きの白い花を付け
ひっそりと立っており、根元には、磐梯神社の木ざしサクラと木柱に書かれている。
木ざしの桜が磐梯神社を見守ってきたのか、神社の巫女達が桜を祀ったのか、
磐梯山だけが知っているようである。
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