3. 瘤が火事で燃えちゃまった

「信号を右に曲がって間も無くして左に上がる道があるんですって。」
 「やっぱり、真っ直ぐでしたね。出発します。」
 「カメちゃん、左と右とでは大違いだよ。」
と交差点を右折して広い道路に戻り走り出すと。
 「あった、思い出しましたよ。あの道ですよ。
あそこを上った所の建物の傍にあるんですよ。」
 車は狭い坂道を上り切ると大きな屋根をもった昔ながら農家の家が現れた。
建物の前の屋敷畑は見事に手入れされている。
細道の右手は杉木立と雑木で鬱蒼としている。
 「カメさん、あれですか。」
 「あれですよ。あの古い巨木が桜です。やっぱり、花は全然咲いてないですね。」
 桜は大きな作業小屋の傍で建物を覆うように立っている。
 車を小屋の後ろに止めて三人は桜に近づくと、苔を生えながらも
風雪に耐え忍んだ古木が静かにながらも、
病気でもして幹の一部を切り取る手術を受けたかのように
少し元気のない息をしているようである。
 桜の写真を撮り終えたカメさんと私は、
桜と小屋の隙間を潜り抜け大きな家の玄関の戸を開けた。
鳥谷脇の桜
 「こんちわ。こんにちは。ごめん下さーーい。」
 と家の中に呼びかけてが静かな家に声が吸い込まれていった。
 「こんにちは。ごめん下さい。」
 「カメさん留守ですね。」
 「そうですね。」
と家の前で建物を眺めていると。
麦わら帽子に手ぬぐいで顔を日焼けを防ぎ、エプロンを掛け、
ゴム長の農作業の姿の小柄のおばーさんが戻ってきた。
 「こんにちは、一昨年もお邪魔したんでした。また、桜を見にきました。」
 「そうであんすか。花はまだでんすー。」
 「古い桜ですね。幹の部分は腐れたんで削ったんですか。」
 「あのところにデッカイ瘤があったす。わらすっこが登って遊んだもんだ。
随分前に小屋が火事になって瘤も燃えちゃまってんだー。」
 優しいばーちゃんと話を終えると記念に写真を撮ろうとするが遠慮気味に断る、
是非ににと誘って、ばーちゃんを中心にして並んだ。カメラノレンズに高台の家と
3人と北上の平原と青空が爽やかに映し出されいた。

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